わたしたち鍼灸師がハリやお灸の施術をしていると、
「そこは何のツボですか?」
という質問を受けることがあります。
この問いに対する答えは複雑で、実は多くの鍼灸師が返事に困る質問のひとつなのです。
今回はこの「ツボ」についてご説明したいと思います。
痛みが和らぐ「ツボ」とは
「腧穴(しゅけつ)」いわゆる「ツボ」は、大きく二つの種類に分けられます。
二つの種類を簡単にいえば、名前や場所が定まっているものと、定まっていないものです。
みなさんは、からだに痛みを感じたときに無意識に触れる部分がありませんか?
頭痛がしたとき
おなかが痛いとき
腰を痛めたとき
痛い部分を押したりさすったりした経験は誰にでもあると思います。
その押したりさすったりした部分の多くは、名前や場所が定まっていない「ツボ」であり、東洋医学では「阿是穴(あぜけつ)」と呼ばれています。
ひとが「阿是穴」に触れるのは、心地よかったり痛みが和らいだように感じるからです。
「ツボ」を押すと心地いい理由
なぜ触れると痛みが和らいだように感じるのでしょう。
これはわたしたち人間のからだのしくみとして、痛みを脳へ伝える感覚よりも、触れた(あるいは触れられた)感覚を脳へ伝える方が優先されるからです。
このからだの仕組みによって、「阿是穴」を刺激すると一時的に痛みの感覚が和らぎます。
「阿是穴」の発見はハリやお灸、あん摩が生まれたきっかけでもあります。
しかし、痛みを発生させる根本的な問題が解決できなければ、痛みを取り去ることはできません。
では、根本的な解決のための「ツボ」はどこにあるのでしょうか。
鍼灸師が選ぶ「ツボ」
東洋医学をもとにしたハリやお灸の施術には、「経穴(けいけつ)」や「奇穴(きけつ)」と呼ばれる名前や場所が定まっている「ツボ」を多く使います。
これらの「ツボ」を使った施術のことを「経絡(けいらく)治療」といいます。
「経絡」は、わたしたちの生命活動を維持するための気や血はもちろん、病気の原因といわれる邪気が移動する線路のようなものです。
この線路にはいくつかのルートがあります。
体表から臓腑(内臓と呼ばれる場所)へ向かうルートもあれば、からだの前後を縦に走るルートもあります。
合わせて20本あるこのルート上の重要な部位、線路でいえば駅にあたる場所をわかりやすく「ツボ」と呼ぶのです。
この線路上にある「ツボ」の数は、左右合わせて全身で700個ほどあります。
鍼灸師は施術をする前に脈を取ったり(切診)、声の調子を確認したり(聞診)、会話をしたり(問診)、舌を見たり(望診)他にもさまざまな診断を重ねます。
この診断によってどのルートのどの「ツボ」を選ぶかを判断するのです。
(文責・雪浦本院 山口)
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